tasogarex’s blog

ITガジェットやライフハックとしてのゲームについて書いています。ITコンサルティング会社勤務シニアマネージャー。一児の父です。

4. 夢と現の第三世界

VRが仮想的な世界を構築するのに対し、ARは現実世界を拡張したものとなります。つまり現実と同じ制約を持ちながら架空の存在に触れることができるので、ちょっとだけズレた空想世界をリアリティを持って体験ができます。

地図上の別の地点に行くのには時間と労力がかかるし、時がたてばお腹もすくしのども乾く。たくさん歩けば汗もかくし、世界はその時どきによって様々な景色を見せてくれます。

そんな計算できないナマの世界にまるで突然霊感に目覚めてしまったかのようにポケモンが出現するわけです。
すると不思議なことに現実部分ですらなにかこれまでとは違った世界のように感じられ、色々なところに行ってみたい衝動にかられます。

現実という第一の世界に、ポケモンのいる第二の世界が重なり合って生まれる第三の世界。

その世界では自分自身が実在し動き回るのです。
NIANTICのアジア統括マーケティングマネージャーである須賀健人氏は、「Ingressは自分自身が、アバター」とおっしゃっていましたが、
まさに第三の世界では自分自身が、無意識に世界の内側に存在しアバターと化しているなと気が付きました。
まるで村上春樹の小説の主人公のようにシームレスに不思議な世界に没入してゆくのです。

そして現実という第一世界は変えられませんが、架空の第二世界は無限大なので、組み合わせる第二世界の数だけ第三世界も作られ得るのです。
そこでは自分が街のガーディアンかもしれないし、ひつじ男がいるかもしれません。ギルガメの洞窟がなくなっているかもしれません。
銀行は入れたものに利子がつく魔法のカプセルを供給し、遺跡では伝説の偉人に出会うことができるかもしれません。(これらのうちのいくつかはIngressで実際行われています)

夢と現(うつつ)の距離感が希薄になる第三世界では全てのものに新しい価値を生むことができます。
夢が現実になる一つの形ともいえます。
第一世界の物差しでは測れない、第二世界には作られたもの以上はない。第三世界の価値を産み出していくのは、夢見る力や空想力かもしれません。
そう考えてから自分が予想したポケモンGO提携例を見直すと悲しいまでに第一、第二世界にとらわれた陳腐な想像力です。

あり得ない世界を想像する力が求められる時代が来ているのだとすれば、心からわくわくしますね。

 

Index
1. ニーズに基づかない新機軸マーケティング
2. ポケモンGOを取り巻く企業構造
3. ビジネスモデル:インフラ×触媒×提携先
4. 夢と現の第三世界

3. ビジネスモデル:Ingressインフラ×ポケモンという触媒×??? ポケモンGO

まず注目したいのは、任天堂と㈱ポケモンのこのビジネスへの関わり方です。
上記の通り現時点で任天堂ポケモンGOの開発、販売に関わっておらず、㈱ポケモンも共同開発とポケモンライセンス提供のみで販売には関わっていません。
ポケモンゲームなのに日本で全然広告宣伝を目にしなかったのは、この2社が販売に関わっておらず、NIANTICは広告宣伝をほとんどしていなかったからです。
販促費をかけずにこれほど売れたのは何故か。
とうやらインフラと商材が鍵となりそうです。
まずインフラですが、ポケモンGOはIngressというゲームがベースとなっています。
IngressはNIANTIC社内ベンチャーだった2012年11月にβテストリリースした、世界中の人がGoogle map上で陣取りゲームができるスマホゲームです。
地図上の公共施設を申請することでスポットとして登録され、プレーヤー(エージェント)はスポットに近づいて、他チームから守ったり攻撃したりします。
Ingressはリリース当初こそあまり流行っていなかったものの、4年間でじわじわとファンを伸ばし、一大人気アプリとなりました。
Ingress上での戦争がヒートアップしすぎてリアル事件が起きたり、様々な企業と提携拡大し、店舗で限定アイテムが入手できたりといったことも。
今では世界中の様々な地点がスポットとして登録されています。

そして、ポケモンGOですが、このIngressのサーバデータが共用されており、Ingressで登録されたスポットがポケモンGOのスポットにもなっています。
よって、ポケモンGOリリース時点で、すでに大量のスポットが世界中に発生していましたし、GPSを利用して実世界の地図と連動し、スポットに近づいて行動を起こす基本的なエンジンはすべてIngressで出来上がっていたところからスタートしています。
NIANTICはリアルワールドゲームと表現していますが、上記のようなリアルワールドゲームのインフラは様々なゲームやアプリで使いまわせるところがポイントです。

今回のポケモンGOはこのインフラに「ポケモン」を載せたことで爆発的なヒットを生みました。
私はインフラに載せたポケモンは触媒のような存在と捉えています。
インフラだけではこのヒットはありえません。
触媒としてのポケモンに以下の性質があったからこそではないでしょうか。
・1996年の初代ポケモンゲームボーイで発売されてから20年、世界中で大ヒットをし続けているコンテンツであること
・初代ポケモンのコアプレイヤー6才〜16才は現在26才〜36才でスマホゲームのターゲット世代と重なること
・男女を問わず好まれる可愛らしさ重視のキャラクターデザイン
・ラディカルな表現を含まない平和的な世界観
・人間は完全に脇役で性的表現も皆無
・ゲームシステムやグラフィックは20年たってもシンプルなままだが、色褪せず飽きがこない普遍的かつ王道2D RPG

NIANTICのCEOジョン・ハンケはGoogle
mapとポケモンの相性の良さをチョコレートとピーナッツバターに例え、提携を推進してきました。
あまり商売っ気のない会社のようですのでここまでの経済効果を狙ってのものではないかもしれませんが、その素晴らしい相性の良さを実績が示しています。上記例えはわかるようでわかりませんが(笑)。

さて、インフラとポケモンだけでも世界的現象を起こしたポケモンGOですが、今後は企業や国
地方自治体がポケモンGOとの提携戦略を繰り広げて行くことになります。それが当該ビジネスモデルの第三の要素です。

 

Index
1. ニーズに基づかない新機軸マーケティング
2. ポケモンGOを取り巻く企業構造
3. ビジネスモデル:Ingressインフラ×ポケモンという触媒×???
4. 起源
5. 近未来仮説

2. ポケモンGOを取り巻く企業構造 ポケモンGO

8月8日、ポケモンGOが月間200億円超の売上計上というニュースがありました。

http://www.sankei.com/smp/economy/news/160809/ecn1608090007-s1.html

ぱっと見でもすごい数字ではありますが、その収益を獲得するポケモンGOの関連企業を整理してみます。

ポケモンGO任天堂ではなくNIANTIC.INCという米国の非上場企業が提供しています。
NIANTICGoogleGoogle earthを開発していたチームが社内ベンチャーとして始めました。その後GoogleがAlphabet社を作って持株化された2015年10月にNIANTICはスピンアウトして独立。その際の出資社が、Google, 任天堂, ㈱ポケモンでした。非上場なので出資比率は不明です。

その後2016年2月にはフジテレビなんかが出資に加わってますが、初期の3社に比べるとシェアは微々たるもので数%と言われています。

そしてポケモンGOですが、提供元はNIANTICですが、㈱ポケモンとの共同開発となっています。
共同開発の契約内容は不明ですが収益の配分が決まっているはずです。

ポケモン任天堂が32%株を保有していますので、㈱ポケモンの利益の32%は任天堂の収益としても加算されます。

またApple storeやGoogleplayは課金収入の30%を手数料として持っていきます。

推計パラメーター(控えめ)
・月間200億円ペースが持続しないとしても年間1000億円は固いとして年間1,000億円売上と仮定
Google任天堂、㈱ポケモンの株式シェアを、30%、13%、13%と仮定(20%未満は連結組み入れなし)
NIANTICと㈱ポケモンの取り分を6:4と仮定
・開発費、サーバ保守/運営費、その他細かい費用足しても10億はいかないと仮定して計算から外す。
・AppStoreとGoogleplayの課金収益比率は1:2と仮定

試算結果(年)
NIANTIC  420億円
Google   410億円
③㈱ポケモン 280億円
Apple   100億円
任天堂   89億円

(計算式)
①(売上高1000-アプリ配信手数料支払300)×共同開発配分0.6=420
②Googleplay手数料収入200+(700×株式シェアによる持分適用0.3)=410
③700×共同開発配分0.40=280
④AppStore手数料収入100
⑤280×③の株式シェアによる持分適用0.32=89

試算結果まとめ
NIANTICは主役ですからもちろん大成功ですが、③㈱ポケモンも決算ぶっ飛ぶレベルでウハウハですね

Googleと④Appleはやっぱりおいしいですね。仮想ストアのショバ代だけで100億円以上チャリンチャリン。トランザクションビジネスの勝ちパターンです。
任天堂は7月にポケモンGOが自社の経営に与える影響は軽微である旨を公示しましたが、これはポケモンGOの200億ニュースより前でした。
任天堂の2016.3月期営業利益が328億円ですので89億円は軽微とはいえない数字だと思います。

(補足)
任天堂ポケモンGOと連動するウェアラブルバイス、「ポケモンGO Plus」を開発。9月販売予定なのでその売上次第でもっと収益効果がでます。
Google任天堂、㈱ポケモンNIANTICへの追加投資がほぼ決まっています。正確には出資時に2/3だけ払ってNIANTICマイルストーンを設定して達成時に残りを払う契約。追加出資の比率によっては任天堂もしくは㈱ポケモンのシェアが20%を超えてNIANTICの収益が持分適用でのっかってくる可能性があります。

 

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1. ニーズに基づかない新機軸マーケティング
2. ポケモンGOを取り巻く企業構造
3. ビジネスモデル:Ingressインフラ×ポケモンという触媒×???
4. 起源
5. 近未来仮説

1.ニーズに基づかない新機軸マーケティング ポケモンGO

ここ10年来、AR(拡張現実), VR(仮想現実), O2Oマーケティングなどの技術、理論は、主に広告業界で進化してきました。
大手広告代理店や様々なコンサルが費用対広告効果をお客様に提案してきましたが、いずれも訴求効果、つまり目にしたユーザーが何を得られるかに主眼が置かれてきました。
ターゲット顧客層を設定し、共通するニーズを分析して、それに訴求する提案を示すのは普遍的なマーケティング手法でした。

一方、ポケモンGOが起こした現象はどうだったでしょうか。
公開から一ヶ月、ポケモンが集まりやすいスポットである大型公園には日中深夜問わず大勢の人が集まっています。
私を含め彼らは何を求めてやってきているのでしょうか。それはポケモンです。それ以外は別に何も求めていないんです。

そしてスポットに集まる人々の顔ぶれですが、見事なまでに大人ばかりです。8割がた20〜30代に見えました。
大の大人が、ポケモン欲しさに一箇所に大勢足を運んで時間を費す。やってない人からすると馬鹿みたいでしょうが、ここで着目したいのは、以下2点です。

 ・およそこの世代層にとって何の役にもたたないものと自覚しながら、実際に足を運んで集まる事象が発生していること
 ・グローバルで同様の現象が起きているということ

つまり20〜30代という経済活動の主力世代を、ニーズとは無関係に誘引することが、国や文化を越えて実現てきてしまったのです。
仮設、理論、実証実験をすっ飛ばして、突如として世界で一様にこのブームは巻き起こりました。
私はこの現象が、これまで顧客の購買心理を分析し、クーポンをはじめとする付加価値とAR,VR技術を連携させて顧客に訴求してきたマーケティング手法に風穴をあけるかもしれないと思いました。
この分野で活躍中もしくは活躍予定のコンサルタントの方々は内心、自分のお客さまが余計な観点持つ前にブームが早く終わってほしいと焦ってるのではないでしょうか。

日本でのリリースが東京都知事選挙の真っ最中だったのも面白かったですね。
候補者は人の集まるターミナル駅の駅前を中心に演説していたわけですが、その裏では都内各所の公園にたくさんの有権者が朝から晩まで集まっていたわけです。しかもスポットと呼ばれる地点に留まるとたくさんポケモンゲットできる仕組みなので、皆スポットに一定時間足を止めているのです。
大多数が通り過ぎてゆく駅前と比べて、演説効果がどうかわってくるかトライする候補者がいたら面白かったろうにと。
今の選挙法では禁じられているとは思いますが、深夜でも公園に大勢集まっていたので、夜間選挙活動が可能な状況ができあがっていたのも興味深いですね。

ポケモンGOではルアーと呼ばれるアイテムによって、特定のスポットで一定時間ポケモン発生率を上げることができるため、人が集まる公園の、ルアーがセットされたスポットにたくさん人が集まります。そして大勢がいるのでルアーの効果が切れても別の誰かがすぐ設置するので、集会効果はより高まっていきます。
つまりある程度恣意的に、人の集まるポイントを作ることができるということです。
ゲームの中の仮想世界ではなく、現実世界で起こせるのがすごいところで、ARの妙ともいえますね。しかし同時に恐ろしい性質であることは想像に易いと思います。

ここまではポケモンGOというよりは、ポケモンGOがもたらす効果に着目してきましたが、ポケモンGO単体でも重要なポイントがあります。
それは販促費です。
月間200億円を超える売上となったこのゲームアプリですが、TV CMとか雑誌媒体で広告宣伝ほとんどしてないんです。
その理由は資本構造にもあるんですがそれは次章で解説するとして、ソシャゲの肝となるはずの販促費ほぼなしでこの売上高、もう異次元ですね。

 Index
1. ニーズに基づかない新機軸マーケティング
2. ポケモンGOを取り巻く企業構造
3. ビジネスモデル:Ingressインフラ×ポケモンという触媒×???
4. 起源
5. 近未来仮説

 

ポケモンGO考察 はじめに

ポケモンGOが日本でリリースされてから約一ヶ月たちました。
賛否両論様々な意見が出ていますが、ここではポジティブな観点でポケモンGOについて考察してみました。
なお、私もリリース当初からのプレイヤーです。

ポケモンGOについて語る上でのテーマとしては、
 1. ゲームとしての評価
 2. 個人に及ぼす影響
 3. ビジネス的観点
等がありますが、ここでは3. ビジネス的観点にフォーカスしてみたいと思います。

 

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1. ニーズに基づかない新機軸マーケティング
2. ポケモンGOを取り巻く企業構造
3. ビジネスモデル:インフラ×触媒×提携先
4. 夢と現の第三世界